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2012年11月18日 - 2012年11月24日

2012/11/18

『全訳 チャンドラキールティ 入中論』ご紹介

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ようやく、この本のご紹介にこぎつけました。

瓜生津隆真氏・中沢中氏共訳で
中観派チャンドラキールティの重要な文献

『入中論』(チベット語訳)

の丁寧な註を付した和訳翻訳です。

瓜生津隆真氏は、長年、龍樹の研究で、日本ではよく知られた学者です。

また、

共訳者の中沢氏は、このサイトでも学識の深さではみなによく知られた存在です。
チベット密教の行者でもあり、学者でもある、という立場をとられています。


《チャンドラキールティ》

チャンドラキールティは、およそ七世紀の人物と言われます。
インドでは、大乗仏教の興隆も、最盛期にさしかかっていると言いますか、
やや、熟成の期間に入ってきたと言いますか、そのような時代を迎えている頃の人です。

さまざまな問題が、はっきりとした哲学上の課題として浮かび上がって来ている時代、

龍樹の教えを自覚的に受け継ぐ人物として、

かれは、インドの思想界に登場します。

論法でいえば、プラサンガといわれる帰謬法的な方法を用いた、と解説されます。。

           ◇◇◇

さて、そこで、この『入中論』について

★1  龍樹の空観を基礎にして
★2  菩薩行の十地を解説した論書である

と、簡潔に述べてしまいましょう。

本書は、
=======
◇序論◇ 
瓜生津先生の
「 中観仏教における菩薩道の展開 」

◇本論◇
 共訳
「入中論 と 入中論自注 の 和訳翻訳」

◇結論(?)◇
中沢中氏の
「 『入中論自注』評釈 」
========
という、三段階の構成です。


◇序論◇ では、

瓜生津先生が、龍樹・チャンドラキールティに造詣の深いところを遺憾なく発揮され、
『入中論』における ★2 の側面、
すなわち、菩薩行という観点から、詳しく解説されます。

ここは、
チャンドラキールティの龍樹とのちがいや
かれの思想的な独自性や、
彼と対立した他学派・多宗派批判などが
明瞭になって、読者に裨益するところ大であります。

他の著作なども含めて、チャンドラキールティについて論じ、
バーヴァヴィヴェーカの学説批判などもあげ、
当時の論理偏重を戒めようとしたと、先生は解説されています(p.22)。


『入中論』について、一文引用するとすれば、ここかな。
   ~~~~~~~~~~~
 このようにナーガールジュナの立場を継承する彼(チャンドラキールティ)は、
このような大乗の特質が菩薩道の本質にほかならないことを自覚し、それを組織的に
体系化して説くことを目的として『入中論』を述作したと見ることができる。このようにして
菩薩道の理念体系を明らかにしようとしていることが、彼の中観学説を見る場合の
重要な視点になるだろう。(p.20)
   ~~~~~~~~~~~
( )内は、私が補いました。


◇本論◇ では、

翻訳は、読みやすく、科門が添えられており、
細かな番号がふってあるので、個所の特定がしやすくて
たいへんありがたいです。
ときおり、名詞止めの訳が、気になりますが、総じて、読みやすいです。

菩薩の十地のうち、第六の現前地で、空性の議論がとかれ、
ここで、全体の4分の3が費やされています。

また、翻訳の他に、ネットで以下に、校訂したチベット語テキストも公開しています。
http://kishin-syobo.com/index.php?%E8%B3%87%E6%96%99%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%AF

本文中に原語などの指摘はありませんが、
テキストにも番号がふられていて、わかりやすいため、
読者は、ネットとの併用で、詳しく検討することもできて、たいへん便利です。

細かな点に配慮された出版だ、という印象を受けます。


◇結論(?)◇ では、

中沢氏が、自身の仏教者としての立場も明らかにしながら、
『入中論』の論理、とくに、ブッダの法との絡みを
★1 を中心に述べていきます。

たんに、無自性・空といった説明ではなく、

『梵網経』の62見を、10難無記、あるいは14無記にまとめたうえで、

それを批判し、戯論寂滅をねらう書として、

『中論』を位置づけて、

そこから、中観派の空観の思想を展開してくところに、

新しい観点と重要な視点が点在していて、
今までにない画期的な展開になっています。

そこから、さらに、空海をにらむ密教的な視点や
誓願や菩提心など菩薩行も説かれ、
大乗のみならず、仏教全体を見通す解説となっています。

たいへん意欲的に説かれており、
大いに読者に益するものとなりましょう。
後の、仏教学の発展にも大いに寄与すると思います。

ただ、いくらか問題もあります。
解説に説かれる点が、簡略なまとめになっているため、
詳しい内容を論じたものがほしくなります。

経典・論書の引用で、まとめてしまいますと、
仏教徒のための学習書のような雰囲気もしてくるので、
もう少し論の展開があれば、と願わないでもありません。

でも、紙面の都合で仕方ないところもありましょう。

この書は、
お二人の研究領域の微妙なズレが、
うまく作用して

瓜生津氏の★2の観点
中沢氏の★1の観点    により

『入中論』と『自注』の全体像が、
立体的に現れ出てくる仕組みになっています。

この点、従来にない多角的で深い仏教の論書の解説であると

思うものであります。

従来、チャンドラキールティを帰謬論証派と呼んで、
論法的には、ディグナーガらの説く論証形式のあり方を
批判した、と見られがちですが、
それだけではない
チャンドラキールティの豊かな思想展開がダイナミックに感じ取れる好著です。


ぜひ、ご一読あれ!

わたしも、もう少し、しっかり熟読したいと思っていますが、

とりあえず、今年中にご紹介しないとね。。。

集中して読みたい本ですね。

あ、雪が降ってきました。初雪ですね。遅い初雪。
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